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2019年度運動方針(全日農第58回定期全国大会)

農民運動を再確立する年に

 環太平洋経済連携協定(TPP)は、2010年から政治問題として登場した。グローバリズムとあらゆる分野の規制緩和が展開され、生活破壊を懸念する国民運動の中心的テーマにもなった。その後、オバマに代わったトランプ政権の登場でとん挫すると思われたが、日本主導で11ヵ国によるTPP11として進められてきた。
 TPP11は影響試算もろくに示さず、国会の議論も不十分なまま昨年の通常国会で承認され、12月30日に発効となった。さらに、日本とヨーロッパ連合(EU)との経済連携協定(日欧EPA)に至っては臨時国会でまともな議論さえなされないまま承認され、今年2月1日発効する。
 この通商政策のほかに、昨年秋の臨時国会で焦点となった、外国人労働者受け入れのための出入国管理法改正や、水道事業の民営化につながる水道法改正、資本の参入につながる漁業法の改正など、十分な議論もないまま数を頼んでの強行採決という反動姿勢が目立つ。昨年4月の「主要農産物種子法」廃止や、通常国会で成立した森林経営管理法と同じ構図である。
 しかし、新聞やテレビなどのマスコミで、こうした問題はほとんど報じられることはない。
 将来の行く末を国民が厳しく問い直し、政治のあり方、かかわり方を問い直すべき情勢にある。一層の厳しさが予想される新たな局面を迎える今、全日農は、日本農業と国民の食料、農村を維持するために引き継いできた農民運動の歴史に責任を持つ立場で、2019年度の運動方針を確立していきたい。

私たちをとりまく情勢

(1)TPP11・日欧EPAの発効

 昨年12月30日、TPP11が発効となった。日欧EPAの発効は2月1日である。
 これら巨大な経済圏での自由貿易協定(メガFTA)により農畜産物の輸入が激増し、国内農畜産業は壊滅的打撃を受けることが予想される。38%まで低下した食料自給率をさらに押し下げることになり、安全・安心な食料の確保はますます困難になろうとしている。
 メガFTAは、規制緩和の下、従来の生産構造を破壊し、グローバル企業の利益を優先するものである。海外資本にまで農地の取得、農業進出の道を開くものでありながら、農政にはこれらに対抗して日本の農畜産業を守る姿勢は見られず、規制緩和とグローバル企業間の競争の上での政策でしかない。
 これまで食料と国土を支えてきた中小農民・家族農業者・第1次産業従事者が切り捨てられ、地域で守ってきたものを奪い去られる時代が迫っている。
 
(2)民のくらし無視する日本政府
 
 現在の政策に兼業農家・家族農業の位置づけはほとんど無く、存在そのものが否定されているかのようだ。
 2019年度の農林水産省の概算予算要求も、ドローン、無人ロボット、スマート農業など企業経営や技術革新、生産性向上のみに目を向けた政策が目立つ。それらを軽視するものではないが、食料・農業・農村基本法で唱えていた自給率向上への取り組みや、多様な担い手の位置づけはどこへ行ったのか。
 漁業も、林業もしかりだ。厳しい環境の中、地域や沿岸漁業、山林を守ってきた多くの一次産業従事者は高齢化や担い手不足に直面している。先を見通せない政策の失敗を棚に上げ、政府は家族農家や中小漁業・林業家は不要とばかりの政策を取る。兼業農家からの農地の取り上げにつながりかねない農地中間管理機構による農地集積事業、企業の山林経営で食い物にされかねない森林経営管理法、沿岸漁業権の企業への譲渡など、一次産業従事者が守ってきた数々の宝を国内外の企業へ明け渡させようとする政策がまかり通っている。種子法廃止がまさにそれであり、企業や株主の利益のためにタネという大切な共有財産を失うものである。国民の食料や環境、代々受け継いできた歴史的資産はどうなるのか。厳しく問わなければならない。
 これらは家族農業や小規模農業を大切にし、持続的な農業・農村社会を重視する国際社会に逆行する。昨年12月18日の国連総会では「小農の権利を守る宣言」が採決され、家族経営などを正当に評価し、食料主権や種子の権利などが盛り込まれたが、日本は採択を棄権した。また、2019年は国連「家族農業の10年」が始まる年でもある。農政の抜本的な見直しを求める時である。
 
(3)現場の実態から考える
 
 いま、農業・農村の現場で何が起きているか。その端的な実態を、最も厳しい局面にある中山間地域と、酪農・畜産の現場から見てみたい。
(1)中山間地域の農業(鳥取県の例から)
 昨年の秋、設立から10年を経過した農業生産法人の集落座談会を「これからの5年、10年先の我が家の農業、集落の農業、地域の農業を考える」をテーマに20集落で開いた。
 同法人は253?、530人の構成員を有するが、集落単位でみると構成員の高齢化もあって、集落内の3割から6割近くが法人の直接管理水田のところが増えている。約90?が急・緩傾斜の中山間地域直接支払い制度の対象という完全な中山間地域の農業地帯だ。そこでどういう問題があり、10年先はどうなるのか、考えようというものである。
 昨年4月、国による生産調整が廃止され、当然のごとく米価の下落が予想されるが、水田を守るカギはやはり水稲生産である。高齢化で農業・農村を担う人口の急速な減少による担い手の確保が課題だが、それ以外にも課題は多い。
 どこでも話題になるのが鳥獣害対策だ。個人や集落で防止柵を設置し、年間2千頭もの鹿を捕獲する地域であり、高齢化と人口減少の中、防止柵の管理や設置なども10年先は困難となりかねない。
 また水利・治水対策の問題もある。近年の自然災害は、上流の河床の浸食、下流への土砂の流出が激しい。その度に土砂の除去、堰の修復、水路と河川との段差が生じればポンプアップなどの対策を講じているが、いつまで続けられるかという意見が多い。 
 10年というスパンで考えれば、鳥獣害対策も治水対策も、米をつくり農地を守るための基本的な条件整備、インフラ問題である。定年延長という社会傾向の中で、もはや定年後の帰農による集落での農業や農地の維持さえ困難と懸念もされる。55歳、60歳で農業を選択し、食べていくことができ、地域の農業や集落機能を維持しうる政策が問われる。
 米を始めとする農畜産物の再生産のための価格保証や所得補償、環境保全の役割への評価など、地域で暮らしが持続できる血の通った地域政策・農業政策が無ければ、地方は崩壊しかねない。
(2)酪農・畜産
 TPPや日欧EPAで多大な影響が想定される酪農・畜産の動きはどうか。酪農では、TPP対策として、政府は4年ほど前からクラスター事業による生産基盤の強化を推進してきたが、廃業の動きは一向に止まらない。2018年2月の飼養戸数はすべての地域で減少し、北陸では前年比92・2%と最も落ち込んでいる。北海道も97・3%、全国では95・7%である。
 牛の飼養頭数は、規模拡大等で北海道と中国地方が前年を上回っているが他の地域は減少し、全体でなんとか前年維持の頭数となっている。数百頭規模の牧場ができた一方、数十頭単位の家族経営酪農の廃業は依然として止まっていない。
 肉用牛農家も廃業等で3・6%の減少である。頭数は、乳用種は減少したものの、肉用種(和牛)が増加し、全体では0・6%増加しているが、これからを考えると規模拡大だけでは乗り切れまい。今後、乳製品や肉の輸入拡大となれば、牛乳だけでなく、副産物の肉も下落し、経営を圧迫する懸念は大きい。
 豚は戸数・頭数とも減少している。しかしながら、2000頭以上の規模では、戸数も頭数も若干増加が見られる。こちらも、小規模の養豚農家の廃業が進んでいる。
 子牛安定基金の基準価格の改定や、マルキン制度の9割補償への改定を行ったものの、生乳生産者指定団体制度の改悪にみられるような自由競争や、企業優先の政策がとられるならば、家族経営を主体とする経営体は、再生産が一層厳しくなることが予想される。
 耕畜連携を含め、酪農畜産は地域の農業や経済に貢献している。それを踏まえ、真に安心して経営ができる生乳の不足払い制度など、価格・所得政策は不可欠である。
 
取り組みの基本方向

(1)集落で農地を守り、くらしを守る

 社会の風潮は「今だけ、金だけ、自分だけ」と称される。今さえ良ければ、自分だけ・自社だけが儲かれば、のグローバリズムが席捲している。社会の再生に向けて、地域から取り組んでいかなければならない。
 鳥取での農村座談会に顔を出した80歳の元町長が言う。「食料の安全は一体どうなっているのか。自給率は40%を切っている。いつまでも輸入できる状態でない。ストップされたらどうするのか。軍事兵器に膨大な予算を使うよりも、もっと農業の生産に使うべきだ。自民党の農政は一体どうなっているのか」。普段は人前に出ない元町長のあせりにも似た気がかりと、現状の自民党農政への不満の発言である。
 現在の大規模、技術革新のみの政策には「誰のために、何のために」の視点が無い。 兼業・専業問わず、地域の農家が歴代、脈々と受け継ぎ持続させてきた地域農業、暮らしの空間である農村。そこに暮らし、生産に携わる農業者が地域を守ってきたからこそ、国土保全や環境保全もできていたのである。家族農業者、小規模農業者を農業分野から排除し、一部の担い手や企業へとシフトさせている政策でいいのか。
 集落の農地を集落で守るためにはどうするか。農業への感謝、共同作業の大切さ、相互扶助による暮らし・生活のあり方を時間がかかっても再認識していくことだ。
 政策的には、戸別所得補償政策、地域政策および多様な担い手による持続可能な農畜産業政策、生産費の保証・再生産を可能とする政策こそ求められる。
 
(2)地域自立を考えた生消の連携を
 
 現状の政策は破綻が見えている。地域存続への課題や問題、不安要素をあぶりだしながら、地域での連帯とネットワークを形成し、自らの生活・活動領域を守り拡大していくしかない。
 道州制ではなく、地域自給圏構想、産直連携、都市と農村の連携、独立圏の構想や、地域の主体性を生かした共和国的な自治体づくりを考えたい。マネーゲームでしかない仮想通貨ではなく、地域経済や地域社会に裏付けされた地域通貨圏を構成し、「小さな国家」づくりに踏み出すべきであろう。
 そのくらいの思い切った策を講じないと政治的な対峙ができず、国政・政治に対するトータルな反撃や批判ができない。国が農村を廃棄するのなら、それを前提にした国づくり、地域づくりを考えなければならない。
 誰が、誰のために農業を続け、食料を生産し、何を守っていくのか。この柱をしっかり見定めなければ、やがて嵐の大海にさまよう船のごとく、進路を見誤ることになりかねない。農村に住み、営農する農業者が、報われないことへのあきらめと虚しさを覚えるばかりとなれば、さらに離農が進みかねない。
 農民運動的には、今後発生するであろう問題を明らかにしながら、農政の転換を徹底して求めていく闘いと同時に、農村の現状を地域や都市の消費者に積極的に伝え、共に生きるための連携した取り組みが大切だ。日本の原風景である谷や川、水源である山や里山を守り、景観保全する営み、いざという時のための食料確保、農林業の持つ多面的機能など、消費者と共有できる認識は多い。
 安全な食べ物を安定的に生産、供給する。消費者は再生産を可能にする価格で購入することで、持続的な生産を支える。その循環によって、農業者・関連業者と消費者の暮らしが成り立ち、大切な地域文化や消費文化も守られるのだ。農業者はもちろんだが、消費者が自らの問題として、農業や食料を考えなければならない時代となっている。新たな局面で、新たな運動として、挑戦的に取り組んでいきたい。

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