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2020年度運動方針(全日農第59回定期全国大会)

日本農業は存亡の危機 重要性増す農民運動

  今年1月1日に発効した日米貿易協定は、農産物については、コメは除外されたものの、牛・豚肉などは軒並み環太平洋経済連携協定(TPP)の水準まで関税を下げるなど大幅な市場開放が行われた。一方、日本の自動車の関税は継続協議で妥協するなど、安倍晋三首相が言う「両国の全ての国民に利益をもたらすウィンウィンの合意」とはほど遠い、日本側の譲歩だけが目立つ「不公平な協定」となった。2018年12月末のTPP11、昨年2月からの欧州連合(EU)との通商協定に続き、日本の農業を存亡の危機に追い込む貿易協定であることは明白だ。
 一方、安倍内閣は、経済界や一部学者などで構成する未来投資会議や規制改革推進会議などの検討をもとにした農政改革を進めてきた。これらは、規制緩和や競争力強化の名のもとに、企業等による農業・食料の支配を進めるものである。歴代首相で在任期間が最長となった安倍政権に対し、これまでの官邸主導の農政の問題を厳しく追及をしなければならない。
 一層の厳しさが予想される局面で、全日農は、日本農業と農村、安心・安全な食料を守るために、引き継いできた農民運動の歴史に責任を持ち、2020年度の運動方針を確立していく。

私たちをとりまく情勢

1. メガFTAで総自由化へ突入
 
 アメリカを除く11か国による環太平洋経済連携協定(TPP11)は、2018年12月30日に、日本、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、メキシコ、シンガポールの6か国の間で発効し、その後ベトナムが加わり、現在は7ヵ国で実施されている。マレーシアなど4ヵ国は署名から1年以上過ぎた今でも国内手続きを終えておらず、適用されていない。
 一方、ヨーロッパ連合(EU)との経済連携協定(日欧EPA)も、昨年2月1日に発効した。TPP11も日欧EPAも、経済規模や関税撤廃率の高さなどから、それまでの二国間の自由貿易協定(FTA)とは違う 「メガFTA」と呼ばれ、日本は一挙に大規模な総自由化時代に突入した。
 そして、今年1月1日から日米貿易協定が発効した。日米交渉は、2017年2月にトランプ米大統領がTPPからの離脱を表明したことで、特に農畜産物の関税水準がTPP参加国より米国が不利になることから、一昨年9月の日米首脳会談で交渉入りを合意し、わずか1年での決着となった。これは、今年の大統領選挙に向けてトランプ大統領が成果を誇示するためであることは明白だ。しかも、かつてないほど交渉内容は明らかにされず、農民・国民をないがしろにする安倍政権の姿勢が一段と露わになった。
 農畜産物では、コメについては、関税削減・撤廃から除外されたものの、牛肉は38・5%からTPP参加国と同じ26・6%まで一気に引き下げ、最終的に9%まで削減する。豚肉もTPPと同様に、差額関税制度は維持しつつ、高価格帯の関税は最終的に撤廃し、低価格品の従量税部分の関税も、1?482円から最終的に50円まで削減される。
 
2.「影響はない」実態無視の政府の詭弁
 
 政府は、メガFTAの発効により、関税の削減・撤廃で安価な輸入品が増えることで国内の農産物価格も低下することから、農林水産物の生産額は、TPPで900億?1500億円、日欧EPAで600億?1100億円、日米貿易協定でも600億?1100億円減少すると見込んでいる。
 特に打撃が大きいのは、畜産・酪農である。政府試算でも、TPP11、日欧EPAに日米協定による輸入が加われば、牛・豚肉、牛乳等の生産減少額は現在の国内産出額の1割を超えることになる。
 しかし、政府は国内対策によって、いずれの農畜産物も生産量や農家所得は減少することはなく、自給率も維持されると強弁している。ところが、TPP11、日欧EPAともに協定発効2年目となる昨年4月には、牛肉、豚肉の輸入は過去10年で最多水準となった。各国は今後も日本への農産物輸出増を見込んでおり、政府の姿勢は実態を無視したものと言わざるを得ない。
 輸入が急激に拡大した時に関税率を一時的に上げることが出来る緊急輸入制限(セーフガード=SG)についても、日米協定では「SG措置が取られた場合には、発動水準の数量を一層高いものに調整するため、協議を開始する」としている。例えば、牛肉では最初に24万?のSGを設定しているが、それを超えて輸入された場合に、すぐに基準数量を高く設定するための協議を行うということで、実質的にSGの意味をなさない。
 また、現在の11ヵ国のTPP協定で、牛肉のSGの発動基準数量はアメリカの参加を見込んだ水準のままになっており、これにアメリカが別枠で加われば超えてしまう。政府はTPP参加国に協定の修正協議を要請するとしているが、各国が協議に応じるか不透明だ。
 
3.TPPを上回る市場開放を米に約束
 
 日米交渉はこれで終わったわけではない。トランプ米大統領は自らの政権基盤強化のため、日本に対してTPP11以上の譲歩を強硬に迫ってくるだろう。 日米首脳の共同声明で「協定発効後4ヵ月以内に協議を終え、サービス貿易・投資、その他の課題交渉を開始する」としている。 さらに日米協定の付属書では「米国は将来の交渉において、日本の農産品に関する特恵的な待遇を追求する」と記されている。これは、今回の協定にはないコメや乳製品などについても、早ければ今春にも始まる再交渉で取り上げて市場開放を求めるということを意味する。
 1年前に米政府は議会に対して、食の安全や医療・医薬品などを含め、TPP協定を上回る内容の「対日交渉目的」22項目を正式文書として通知している。安倍首相はこれまで、自動車や農産物などの物品に限った交渉だとしてきたが、事実上、包括的な日米FTA交渉が進められることになる。
 
4.急激に低下する食料自給率
 
 連続するメガFTAによる市場開放の結果、日本の食料自給率はさらに大幅に下落することが予想されている。東京大学の鈴木宜弘教授は「TPPプラス(TPP11+日欧EPA+日米FTAなど)によって、牛肉の自給率は、2035年に現在の36%が16%に、豚肉も49%から11%に低下する。牛乳や乳製品なども28%に、野菜は43%、果物でも28%になる」と予測している。
 コメは、生産の減少以上に消費の減少が大きいため、自給率は100%以上を維持すると見られるが、総生産量は2030年には670万?程度で、現在より3割減少、稲作作付け農家も大幅に減少し、地域コミュニティが維持できなくなる。
 すでに、2018年の食料自給率はカロリーベースで37%に低下し、大冷害に見舞われた1993年を下回り、過去最低に落ち込んだ。現行の食料・農業・農村基本計画では、2025年度の食料自給率の目標を45%としており、実態との差は年々広がっている。作物別にみても、現行基本計画の基準年の2013年に比べて、ジャガイモや野菜、果実、生乳などで生産量が減少、他の多くの作物も目標数量を達成していない。こうした中での市場開放は、農民の営農意欲をますます奪い、食料自給率の低下に拍車をかけるばかりである。
 
5.現場を無視した官邸主導の安倍農政
 
 日本農業は長期にわたって、農業就業人口の減少や高齢化、農業所得の大幅減少、耕作放棄地の増加が続いている。この10年間で法人経営体は2・2倍になったが、家族経営は3割も減少した。最近8年間で農業就業人口は85万人も減少し、基幹的農業従事者は65歳以上が3分の2であり、あと10年もすれば多くがリタイアすると見込まれる。
 延べ作付面積は約404万?(2018年度)で、2013年に比べ12万?の減少となった。耕地利用率も91・6%に低下し、ともに過去最低を更新している。
 農業総産出額と農業所得は、80年代から90年代初めに比べ、それぞれ7割、6割の水準でしかなく、急速に農業生産の基盤が崩壊しつつある。
 安倍首相は2013年2月の施政方針演説で「世界で一番企業が活躍しやすい国にする」と述べた。まさに企業のための「官邸農政」推進であり、生産現場を無視した企業の農業参入や規模拡大、農協解体を進め、条件不利地域を切り捨ててきた。
 2016年に規制改革推進会議や産業競争力会議が深く関与した「農業競争力強化プログラム」に沿って「農業競争力強化支援法」など8法案が成立した。同プログラムは農政の中長期的方針にも関わらず、農水省の審議会で検討されることなく、官邸主導で決められてきた。
 その方針のもとに、2017年には「主要農産物種子法」の廃止や、畜産経営安定法の改定による指定生乳生産者団体制度の改変が行われ、続いて「卸売市場法」の改定による事実上の公設制の廃止、漁業や林業でも外国資本を含めた企業の参入に道を開いている。さらに、2018年4月からはコメの生産調整の数量目標配分が廃止され、生産調整に参加した農家への直接支払交付金も無くなった。代わりに「収入保険制度」が導入されたが、対象者が限定されるなど、問題を抱えている。
 特に「主要農産物種子法」の廃止は大きな問題となった。種子を支配して企業の利益を拡大するためのもので、種の価格が高騰するほか、農業試験場の縮小廃止が予想されるなど、大きな影響が懸念されている。いま、各地で独自に「種子条例」を制定する動きが出ており、これまでに15道県で制定され、さらなる広がりを見せている。
 しかし一方、今後、農家などが行う種子の自家採取の規制につながる恐れがある「種苗法」の改定が行われようとしていることから、これに対する運動も重要になっている。
 
6.基本計画の見直し 持続可能な農業の確立を
 
 農水省は現在、「食料・農業・農村基本計画」の改定作業を進めている。同計画の見直しは「食料・農業・農村基本法」に基づき5年ごとに行うもので、今回で5回目になる。
 安倍政権はこれまでの農政の成果として農業総産出額、生産農業所得が、ともに3年連続で増加したと強調している。しかし、産出額の増加は生産量が減少して単価が上がったためで、生産基盤はますます悪化し、国内供給体制に赤信号が点滅している。また、高齢化などで地域を担う人材が枯渇し、農地を守ることができなくなっている地域が続出している。
 農林漁業は、食料や木材の生産・供給だけでなく、国土や環境の保全、景観の形成、地域社会の維持や雇用の場の確保など多様な役割を果たしている。この多面的機能は、それぞれの地域において持続的に農林漁業を営むことによって発揮されている。
 貿易関税や様々な保護政策は、食料等の確保とともに、こうした多面的機能の維持のために行われるものであり、農民のためではなく、国民全体の利益につながるものである。
 2018年12月に国連総会で「小農の権利を守る宣言」が採択され、家族経営などを正当に評価し、食料主権や種子に対する権利などが盛り込まれた(日本は採択を棄権)。また、昨年から始まった「国連家族農業の10年」も、食料安全保障、生物多様性、環境持続可能性の実現のために、家族農業の果たす役割を確認し、促進するとしている。さらに国連で2015年に採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)でも、持続可能な農業推進がすべての国の目標とされた。
 国際社会の流れは、農林水産業を資源循環型社会の基軸として位置づけ、それを評価することの重要性を示している。そのためには当面、「食料・農業・農村基本計画」の中に明確に家族農業、小規模生産を位置づけさせることが重要になっている。
 
取り組みの課題
 
 農民、農村にとって、あらゆる問題がより先鋭化してくることが予想される。現場で問われる課題・要望に対する具体的な取組みや、取組みを通じての組織化を行っていくことが重要となる。当面の地域の課題を整理するとともに、取組みの方向と組織方針を具体化したい。
 
1.米・酪農・畜産等の課題
 
 米作において、戸別所得補償制度の確立を基本とし、現場では、行政に対し責任をもって生産調整をさせるように働きかける。一方、地域では自分たちの米を直接販売することにも取り組む。その中で、安定的に取引ができる消費者、取引先を開拓する。そのためには、集落営農や販売組合なども組織し、農協との連携も含めながら、有利販売・安定販売先を開拓する。
 飼料米についても、財務省は財源圧縮を狙ってきているが、交付金水準の維持と価格補償制度の確立を行政や農業団体へ働きかける。
 生産においては、水田の利活用だけでなく、自給飼料の生産と連動する複合経営体としての和牛?殖の取り組みや、地域の畜産農家との連携を強める。
 今後、国際的な通商条約で最初に犠牲となる酪農・畜産を守る闘いを強化する必要がある。酪農・畜産は、経営規模も拡大し、EU等と比較しても経営規模、技術水準は決して劣らない。しかし、企業等の参入もあり、1000頭クラスのメガファームなど企業経営へとシフトがより図られ、環境は厳しくなっている。
 さらに、企業参入と併せて、指定生乳生産者団体制度の解体が狙われ、自由競争の促進の下で、家族経営を中心とする専業酪農家は厳しい環境に置かれている。水田農業と畜産との耕畜連携による地域の農畜産業の持続的発展を図る必要がある。
 地域では、耕畜連携による戸数の維持を最大目標とするとともに、北海道・東北・九州など、畜産の主要地域での取組みを強化連携していくべきである。
 
2.土地利用、担い手、産直運動等の課題
 
 農地の流動化に際しては、企業や中核的農家のみ対象の集積ではなく、家族経営の延長としてのだれもが参加し働くことができ、かつ意思決定に参加できる農事組合法人形態の集落営農法人など、地域全体で農地と農業を守る方向を堅持する。また、深刻な耕作放棄地対策も地域全体で取り組まなければならない。
 担い手問題も最重要課題として、新規就農・集落営農・地域の担い手などの育成強化に取り組むことが重要である。担い手に係る定住対策や所得政策への取り組み、集落営農法人の組織化への取り組みを進める。 
 とりわけ、既存の法人を含め、運営や経営、行政支援の課題、さらに直面してくる営農課題、価格対策、負債対策、組織対策など、地域のニーズや課題に応じ、農民組合としても働きかけを強め、組織化を図ることが大切だ。
 そのため、新規就農者との交流会、法人との交流会・研修会の開催等を通じながら、活動者のいる集落で実績を作り、横への広がりを作ることが必要だ。
 自らの手で、価格決定ができる直売運動、加工による付加価値の向上、集落組織や営農組織を通じた社会のつながりを守る取組みも進める。地域の特産の掘り起しと、それを核とした加工販売などの地域づくりに取り組む。
 
3.子どもや消費者等との交流
 
 子ども達の農業体験など食農教育も大切である。世代を超えて土に親しみ、自然との共同の営みや共生、命に対する思い、感性を育みたい。 
 市民に対しても、農業体験、食育体験の場の提供により、農と食への理解を深めるとともに、連携できる関係を強める。特に食の安全や顔の見える関係を求める消費者の体験交流や産直活動を強化する。
 また、近年増加している訪日外国人旅行者にも、国際交流の一環とした農村への受入や体験をベースに国際的な友好交流につながる取り組みとする。
 
4.地域づくりへの参画と働きかけ
 
 地域に根ざした自立的な農業・農村をつくるためには、地域でがんばる様々な団体・個人との連携が重要となる。食は地域の軸であり、農は地域の基盤となる。そのため、食と農を通じたあらゆる地域の団体と連携の在り方を探る。
 農業だけでなく、農村社会全体の担い手の課題、農業・農村課題と密接なつながりのある地方自治や地域の社会システムの課題として、とくに、地域おこし協力隊や新規就農の若者などと連携し、サポートすることも重要である。
 各種政策がより一層都市へと集中する中にあっては、新たなコミュニティや自給圏、自律的なムラの形成が大切である。都市消費者や他の地域との連携も取りながら、自立できる経済圏・生活圏をめざす。
 
5.農村エネルギー・環境政策への取り組み
 
 太陽光や畜産関係のメタン発酵によるバイオマス等、地域での再生可能エネルギーの取り組みも普及してきた。脱原発のためにもクリーンな再生可能エネルギーの拡大は重要である。そのためには、取組みが地域に根差しているかどうかが重要である。土地を占有した企業等に発電した電気の売却益を吸い上げられるだけでは意味がない。農民や地域の人々・団体が再生可能エネルギーを生み出し、地域に電気や収益を還元するようにすることが地域の自立に繋がる。
 そこで注目するのが、農業生産とエネルギー生産を同時に行うソーラーシェアリングの取り組みである。青森などの取り組みに学びながら、自立したエネルギーの取り組みとして拡大したい。
 また、地球温暖化、森林の荒廃による水害等の激甚災害の多発、水資源の枯渇や汚染などが深刻化する中で、農林業のもつ環境への役割はますます重大になっている。2019年度から始まった森林環境譲与税などを活用した地域の取り組みも重要となっている。
 
6.農協組織とのかかわり
 
 農協改革は正念場を迎えている。政府は、規制緩和や農業改革の中で、農協組織を傘下にするために攻撃の手を強めている。農協が農民や地域の立場に立つ組織として存続するかどうかの岐路を迎えている。
 戦後の農業・農村において、農業協同組合の組織や小規模農家、そして家族経営が担ってきた役割は大きい。地域における相互扶助などの人と人の在り方、地域の農業振興への取り組みなど重要な役割を果たしてきた。そうした互恵の思想は、決して新自由主義的な競争原理を受け入れるものではない。
 地域問題に対応するためには、やはり農民の組織である農業協同組合は地方自治体の行政とともに不可欠である。農協を農民の利益を守る組織としてしっかりさせるためにも、連携を求めて常に緊張感をもって対応していく必要がある。
 
7.情報収集と他団体等との連携
 
 AIやロボット、ドローンなどの高度な情報や知識・機器、そしてスマート農業といわれるシステムが、農業経営や農村社会にも浸透してきている。技術者がロボットをつかって工業生産的に作物を生産することすら可能となっている。
 だからこそ、情報収集と課題の整理、さらに、異分野の運動体、取組みとの連携が必要となる時代である。そのための学習と実践など、農民組合の機能強化も重要となっている。
 また、生協等の消費者グループとの連帯、学者グループ、民主団体、労働組合、農業関係団体など他組織との食と農を通じた関係性の模索、具体的な活動での連携も強めていきたい。

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